2012年5月9日水曜日

医者が薬を処方する時


医者が薬を処方する時

注:2000/12/27「メディ スコープ」に掲載されたものです


クスリとのつきあい方あれこれ

医者がクスリを処方するとき

『クスリ〜逆さにすればそれは"リ・ス・ク"』

 

クスリは人体にとって異物です。効果が高ければ高いほど安全性は低くなり、逆に副作用の全くないクスリは効果もほとんど期待できないクスリであるという傾向があります。日本人のクスリ消費量が膨大であることは他国と比べてもダントツですが、更に処方されているクスリの何割かが患者さん自身によって捨てられてしまっているとも言われています。本当に飲むべきクスリを見分ける、毒にならないクスリとのつきあいかたを、普段とはちょっと違った視点で見つめてみます。

 

   目次

  1. 医者がクスリを処方するとき

  2. プラシーボ効果?医師との信頼関係が生み出すクスリの効果

  3. 常用薬の把握を


 

  1. 医者がクスリを処方するとき  

 


ストラテラは、うつ病を治療するために使用される

アメリカでは、払う金額によって受けられる医療にはっきり差がありますので、日本の国民皆保険制度〜誰もがいつでも比較的低い負担で医療を受けられる〜は優れていると思わざるを得ません。しかし、その難点として待ち時間の長さと何より診察時間の短さは患者さんにとっても医師にとっても試練です。

例えば、本来クスリの処方を含めた治療の進め方は、患者さんによって考えや価値観がそれぞれなため、どの治療が最も患者さんにあっているか、十分に話し合って決めるのが理想的です。しかし日本での現実は、問診と診察に十分な時間をとれないため、診断を必要以上に検査に頼る傾向があり、クスリに関しても説明や相談時間節約のために処方されるクスリがないとも言えません。

極端な話ですが、実はクスリには2種類あって、
@どうしても服用しなければならない(場合によっては命に関わる)クスリ
A症状は楽になるかも知れないが病状の経過にはあまり影響しないかもしれないクスリです。(中には効くか効かないかよくわからないが、効く人もいる、という曖昧なクスリもありますがこれは後述します。)
@ のクスリは躊躇なく処方が必要になりますが、問題はAです。

例えば、胃の調子が悪くて受診した患者さん。なんとなく食欲がないだけなのか、吐き気があるのか、痛みがあるのか、痛みならどのようにどの部分がどんなときに痛むのか。便の性状、色はどうか。生活は不規則ではないか、コーヒーやタバコ、刺激物などの摂取が過剰ではないか…等々適切な問診により、日常生活の改善などで軽快する胃炎、ある種のクスリが必要な胃炎、内視鏡などで精密検査が必要な潰瘍や癌など、ある程度の診断が可能です。


腰痛の痛みの治療

しかし、例えばごく軽度の消化不良だとしても、医師の診察により"重要な病気はありませんので日常生活の見直しから始めましょう"と診断されただけで、満足する人はなかなかいません。クスリ好きの日本人と言われるゆえんですが、せっかく病院に来たからにはクスリをもらわなければ損、できれば検査もした方が安心だし、クスリもいらない診断に料金がかかるのかと言う感覚で、専門家によるアドバイスや説明に価値を認めません。医師の方も限られた診察時間の中では病気(がないこと)の説明も日常生活指導のための時間もとれないこともあって、そんな患者さんの満足のために、"なくても大丈夫だけど効くこともあるし、副作用の心配もほとんどない"クスリを 投与することになるわけです。

その結果、ぷかぷかタバコをふかしながら、"胃が痛い"と胃薬を服用するようなコトも日常茶飯事です。もちろん全ての患者さんがこのようにクスリを希望する、またはクスリにより安心感が得られる…というわけではないのですが(困ったことに、どうしてもクスリが必要な状態でも、絶対にクスリを飲みたがらないという逆の患者さんもおられます)、短い診察時間の中では、そういったことを確認する時間もないため、医師はとりあえず"平均的な"患者さんの希望を考えて治療するのです。

クスリを使わない治療法〜じっくり問診をとって診察し、なるべくクスリを使わないで済むよう日常生活改善の指導とフォローアップをするといった治療法は、医師の労力と多くの時間を要します。本来は一番価値が高い物なのですが、それよりもむしろクスリを投与した方が早くて簡単、かつ患者さんウケもいいというのが日本での実体です。
同じコトがクスリだけではなく検査にも言えますが、ここでは省略します。


"犬ミニ発作"

こうして日本の医師は、本当に必要なクスリの量より多めに処方する傾向があるのですが、多くなったままでいると、今度は患者さんがひそかに心配し始め、そのうちこっそり自分で飲む量を調節したり、とおかしなことになってくるのです。(余談になりますが、"昔は医師の微妙な治療を表す言葉として'医師のさじ加減'という表現が使われたが、最近は患者さんが自分なりに病気をとらえ処方通りに服用しない'患者のさじ加減'が主流である"という文を何かで目にしました。)
こういった現状も、とにかく余計な(でも大事な)コトを話し合う時間のない今の日本の外来診療では当然の成り行きであるとも言えます。

さて、ここからが本題なのですが、ではどうやって患者さんは@とAのクスリを見分けるのかと言うと、やはりそれは医師とのコミュニケーションをはかることです。医師は平均的な患者さんの希望を頭に入れてクスリを処方するわけですから、それをあなたのためのオーダーメイド処方に変えてもらうのです。

例えば、クスリは極力減らしたいと思っている、この症状だけはつらいので、それを少しでも軽減する可能性のあるクスリならできるだけ試したい…等々、そういった個人的な希望を伝えていきます。

それには、主治医を決めて、少しずつでもそういう相談をできる雰囲気を作ることです。あなたのライフスタイルに合わせた適切な治療法を、医師と話し合いながら選択し、治療効果を評価していくなどといったことから、信頼関係を築き上げていければ理想です。

 


 

  2. プラシーボ効果?医師との信頼関係が生み出すクスリの効果  

その様にして得られた信頼関係のもとで処方されたクスリは、疑いを持って自分で量を調節しながら服用するようなクスリとは、格段の差で効果が認められるのも事実です。医師が用いるクスリは科学的な根拠に基づいて効果が証明されているものばかりですが、各個人における精神的な影響は無視できません。


ただの小麦粉でさえ、このクスリはよく効くという暗示により頑固な痛みを取り去ったり、眠気を誘ったりすることがあります(プラシーボ効果)。

病気を癒すのはクスリや手術だけではないのです。
"先生に会ったらほっとしました、痛みがなくなりました"…こんな信頼関係に加えた最小限のクスリ。これが最大限にクスリの効果を引き出す最高の治療ではないかと思います。

 


 

  3. 常用薬の把握を  

 

特に高血圧や糖尿病のクスリなど長期に渡り服用する常用薬については、患者さん自身がその名前と用量を把握するように心がけましょう。旅行など出先でクスリを紛失または切らしてしまった場合や万が一の災害時に役立ちます。

阪神大震災などの時も問題になりましたが、病院が被害を受ければ必ずしもいつもカルテが引き出せる状態であるとは限りません。災害時にたくさんの患者さんが臨時診療所に訪れたが、持病に対する常用薬が分からない患者さんには、とりあえずの処方をするしかなかったという話を聞きました。主治医がある程度の期間をかけて診察や検査を繰り返した末に選択したクスリで、病状の微妙なコントロールを保てていた場合など、命取りになりかねません。

時々、服用しているクスリを"白と緑のこれくらいの大きさのカプセルで…"などと外観で説明しようとする患者さんがおられますが、クスリの種類は一万種類以上になるのです。なにしろ同じ効果のクスリでも各製薬会社から複数販売されていますから、その数は膨大です。似たような錠剤・カプセルもたくさんありますので、あくまでも名前で記憶しておくことが肝心です。(実は、医師は処方する全てのクスリの外観が分かるわけではありません。処方箋を書くのは医師でも実際にクスリを扱うのは薬剤師さんだからです。)海外旅行に行く場合は、クスリの商品名ではなく一般名を確認して持参するようにしましょう。



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